Aさんと夫の間には、昭和57年当時、10才の長女、8才の長男、6才の二女の3人の子供がいました。
家族は5人となり子供も成長するにつけ、今までの借家では手狭な状況から、同年9月に前年購入した210㎡の宅地に住宅を新築すべく、その建築資金の一部を住宅金融公庫(現:住宅金融支援機構)より600万円の資金を借り入れいたしました。
その条件として融資対象物件の住宅、及び宅地を担保として差し入れし、普通抵当権が設定されました。
住宅の新築を機に夫婦共に今まで以上に子育てと、仕事に励み借入金の返済も順調に履行していましたが、夫は無理がたたったのか、5年後の5月に42才の若さで病死いたしました。
Aさんは一家の大黒柱を失った後、女手一つで懸命に働きながら3人の子供を育て、借入金の返済に努めてきました。
夫が死亡した時は、3人の子供たちも未成年者であったこともあり、夫名義の不動産の相続までは気が回らず、日々の生活に追われ、その手続きも分からないことからそのままになっていました。
また不動産について担保差し入れ者が死亡した場合の手続きについても理解はされていなかったようです。
その後子供たちも成人となり、教育費や結婚に伴う費用もかかることも多かったことから、借入金の毎月の返済も滞りがちとなっていた状況から借入当初取り交わした、金銭消費貸借抵当権設定契約第4条:期限前の全額返済義務という表題でその事由を記載した条文に該当することとなりました。
その後、住宅金融支援機構より富山地方裁判所に競売の申立がなされ、平成20年8月5日に競売開始が決定いたしました。
利害関係者で債権者である住宅金融支援機構は法定相続人ではありませんが、被相続人名義のままである抵当権設定対象不動産について、法定相続人4人分の名前で法定相続持分どおり登記申請「共同相続登記」を行い4人の共有不動産として、Aさん持分3/6、子供達3人の各持分1/6について差押登記がなされました。
Aさんは、それまでは子供達に極力心配をかけないようにと気配りをしてきましたが、競売により他人の所有となれば、今後の生活の基盤となる大切な家が無くなることになり大変な状況が想定されます。
そこで3人の子供達に相談したところ、子供達も今では仕事にも就いており借入の残金も皆で協力したならば、一括弁済も可能であるとの合意ができたので、翌月の9月18日に借入金残額弁済し、9月20日に差押取下げ、同月24日差押登記抹消、10月14日に抵当権も抹消となりました。
このたびの共同相続登記は、法定相続人以外の債権者で利害関係の立場にある住宅金融支援機構による登記であったことから、法定相続人のうちAさん以外の子供達3人は、自分が知らない間に登記申請されていたということになりました。
しかし、Aさんは、夫の遺産分割協議による相続登記が未だ終えていないことが、一番の気がかりでもあったことから3人の子供達と分割協議を行い、長男が相続することで合意に至りました。
結果、夫が死亡した昭和62年5月1日を相続日として、28年間経過した今年6月に相続登記が完了してようやく安堵されました。