Aさんは母親が亡くなり、当センターへ相談に来られました。父親は既に亡くなっていたため、相続人はAさんと弟さん2人のみでした。話を伺うと、母親は介護をしてくれていたAさんに多く財産を遺したいと思い、公正証書遺言を作成しておりました。
その上、遺言の内容は2人が争うことのないように、弟さんにも財産を遺すように記載されていました。
遺言で相続人の一人が有利になるようにする場合、遺留分侵害にあたるケースがあります。遺留分とは、一定の相続人に確保された最低限の取り分であり、兄弟姉妹以外の相続人に認められるものです。今回のケースですと、弟さんは財産全体の4分の1が確保されます。今回の遺言書は、それを満たす割合になっていました。
それにも関わらず後日、弟さんは依頼した弁護士からAさんに対して、遺留分減殺請求をしてきました。「自分が思っていた財産が残っていない、生前母親はもっと持っていたはずだった」とのことでした。
Aさんは、「母親はおそらく遺留分を考慮して弟さんにも財産の渡る遺言書を作成したのに、なぜ請求されなければならないのだ」と困惑していました。
請求された原因は、Aさんが生前に母親から受けていた贈与でした。生前贈与された財産は、被相続人の相続開始前1年以内に贈与されたものは遺留分減殺請求の対象になります。
また、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、1年前の日より前にしたものについても対象になります。
Aさんはこのケースに当たってしまい、結局はAさんも弁護士をたて、遺留分の対象についてお互いにもめてしまう結果になってしまいました。母親が残した遺言書の末尾には、2人で争うことなく仲良く分けてほしい旨の記載があったにも関わらずです。
このように遺言書を残すことは「争族」にならないための手段として活用されていますが、遺言書を残しただけでは解決にならない場合もあります。そうならないためにも作成をする際は、一度専門家に相談した上で作成をしたほうが良いのかもしれません。