お亡くなりになった方 源平さん (父)
相続人 隼人さん(長男)
隼人さんの父である源平さんは、生前、土木関係の事業を営んでいました。
源平さんは、事業用資金の借入を繰り返すことで、事業を維持していました。というのも、源平さんは、元請け会社から工事の発注を受けるたび、1千万円単位にもなる、工事用材料、および人件費を支払うため、借入をしていたのです。
源平さんは、親会社との取り決めにより、受注した工事の代金を親会社から受け取れるまで、工事完了後3か月も待たされていました。ようやく受け取った工事代金も、源平さんは、信用金庫への返済でほとんど使い切ってしまいます。別の工事を請ける際、源平さんは、また事業用借入をし、その繰り返しで事業をやりくりしていたのです。
幸い、源平さんは、不動産を所有していて、地元の信用金庫の根抵当権を設定していました。だからこそ源平さんは、信用金庫から融資を継続して受けられていたのです。銀行にとって、きちんとした担保を提供する源平さんは、万が一の時にも安全である貸出先だったのです。
そんな源平さんが亡くなり、その5か月後、息子の隼人さんは、相続手続支援センターに足を運び、こうおっしゃいました。
「信用金庫から、『早く不動産の手続をしないと、お金をもう貸さない』と言われ困っている、何とかしてほしい。」
後日、相続手続支援センターによる、不動産調査の結果、次のことを隼人さんは知りました。
・不動産に設定されている根抵当権の債務者が、源平さんになっていること。
・根抵当権の債務者を自分(隼人さん)に変更していないから、信用金庫から融資を受けられないこと。
・根抵当権の債務者を自分(隼人さん)に変更できるのは、父(源平さん)を亡くしてから半年以内であり、あと1か月であること。(民法398条の8)
早急に手続する必要性を感じた隼人さんは、根抵当権の債務者変更を相続手続支援センターに依頼しました。約2週間後、隼人さんは無事、根抵当権の債務者変更済ませ、信用金庫から融資を受けられました。
現在、隼人さんは、信用金庫からの融資と返済を繰り返しながら、事業を切り盛りされ、少しずつ、事業を拡大さ
れていらっしゃいます。
※「根抵当権」とは
一定の種類の債権を、極度額を限度として担保するために、不動産に設定される権利です。
ここでいう、債権とは、「お金を払ってください」と言える権利です。
一定の範囲の債権とは、「お金を払ってください」と言える権利の発生する取引が、「銀行取引」「金銭消費貸借取引」といった具合に、一定の範囲に限定されている債権のことです。
たとえば、銀行が、債権の範囲を「銀行取引」、極度額5,000万円で、
お金を借りる方の不動産に根抵当権を設定したとします。この場合、銀行は、お金を貸す、返済を受ける、を繰り返しても、5,000万円の範囲で不動産を担保に取っている状況を維持できます。
<民法>
(根抵当権者又は債務者の相続)
第398条の8
(第1項)元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債権のほか、相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する。
(第2項)元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。
(第3項)第398条の4第2項の規定は、前2項の合意をする場合について準用する。
(第4項)第1項及び第2項の合意について相続の開始後6箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。