*登場人物
被相続人A
兄弟間の相続/法定相続人9名の内訳
・遺言執行者である代襲相続人O
(Aの死以前に亡くなっているAの弟Tの長男、二男Yは既に死去)
・相続人 K妹
・代襲相続人(兄の子ら) 3姉妹
・代襲相続人(姉の子ら) 4人兄弟
公正証書遺言を手に、「自分が遺言執行者に指名されています」とご相談に見えたのは、叔母にあたるAが亡くなり、代襲相続人にあたるOでした。兄弟間の相続で、相続人は被相続人の妹Kが一人と、代襲相続人である甥・姪たちが8人の合わせて9名。
遺言書の内容は、「全ての財産を弟Tに相続させる。弟Tが亡くなっていた場合には、その二人の息子OとYに等分に相続させる」というもの。Tが亡くなり、Yも続いて既に亡くなっていたので、Y氏への相続分が遺産分割協議の対象となっていました。財産目録を作成し、弁護士より遺言書の控えを添付して各相続人に発送し、意見書を返送してもらいました。ここまでは順調でしたが、いざ、遺産分割協議の場では話合いは紛糾しました。
Oは、「故人の意図は全てをT家へ相続させる」と遺言を解釈していました。その故人の意図を考慮し、基本的に全てをT家長男である自分が相続するが、いくらかは他の方にお支払いする。そしてその考えを,他の8人の法定相続人らに提案したのです。
遺言書の文言だけ見れば、そう解釈してもおかしくありません。しかし叔母Aと親交のあった姪たちが、黙っていませんでした。
「そもそも実の妹であり、よく仕えていたKの事に一言も触れていないのはおかしい、この遺言書はTがAに書かせたものに違いなく、納得がいかない」と姪たちは主張しました。
更に、姪のうちの一人は3才の時にAと養子縁組していて、Aの家から嫁いだのですが、ご本人が知らぬ間に、協議離縁という形で、10年前に養子縁組が解かれていたのです。協議離縁なのに、当事者が知らないということは本来ありません。これはTによる、遺留分を無くすための行動に違いない、と。(遺留分とは、保証されている相続分の事です。養子であれば、法定相続分の半分は保証され、被相続人が遺言でどのように意思表示してもそれを侵害できません)
これに対して、Oは弁護士からの意見書をもって遺言書や協議離縁の法的有効性を主張しました。
調停や裁判になれば、長期間に及ぶ厳しいやりとりになるだろう、そして、そうなるかも知れない、と皆が覚悟しました。
ところが、自分の亡き父のことを散々に言われたOが、突然譲歩して、法定分割で構わない、という決断を下しました。そして遺言執行者を辞し、スッキリとした表情で大阪へ転勤されていきました。
その後全員で遺産分割協議書を作成し、手続きは順調に完了しました。
今となっては、故人の真意は分かりませんが、遺言で遺産をもらう可能性がある人が亡くなった場合は、遺言書の書き直しが必要があることを、痛感した事例でした。