相談者の川上哲也さん(仮名)の実家は、代々続く老舗の企業です。哲也さんは五代目の社長として事業を継いでいます。自分に万が一の事があった時の為に、財産目録を作成して欲しいと依頼を頂き、手続きを進めておりました。
当初は固定資産税の納税通知書を基に、哲也さん名義の不動産を確認しておりましたが、税金がかかっていない原野や山林については確認できませんので、税金がかかっていない免税点未満の不動産も確認する為に、管轄する役場から哲也さん名義の「名寄帳」を取り寄せました。
そこで、課税されていないけれど所有している原野、山林の存在が分かりました。
届いた名寄帳の所有者欄を見ると、5年前に亡くなったお父様の名前が書いてあります。所有者を確認する為に登記情報を取り寄せましたが、亡くなったお父様名義のまま、相続による名義変更手続きが終わっていなかったのです。
哲也さんのお父様は四代目社長でしたが、今から5年前に亡くなられていました。相続人は哲也さんの母、哲也さんの兄と哲也さんでした。
当時、3人で話し合い、会社が使用している不動産や株式を含めた全ての財産を、事業の後継者である哲也さんが相続する内容で分割協議はまとまっており、哲也さんご自身は「父の相続手続きは5年前に全て終了した」と話されていました。
しかし実際には、不動産の名義変更は終わっていなかったのです。
話を聞くと当時の遺産分割協議書があるとの事でしたので、それを使って今から相続による名義変更手続きをしようとした所、なんと、相続人が保管していた遺産分割協議書には、実印の押印がなかったのです。
本来であれば、遺産分割協議書は自署・実印での捺印、印鑑証明書の添付は必須要件です。
しかしその原本が相続人の手元にないのです。どうやら相続税申告の際に協議書の原本を税務署に提出してしまったようです。書類の還付を受けた形跡もありません。
また、お父様が死亡した後に、哲也さんの兄も亡くなっていたのです。
結局、既に亡くなった哲也さんの兄の子供(哲也さんの姪)2名と話し合い、再度遺産分割協議書を作成し、無事に全ての不動産の名義変更手続きを終える事ができました。