山田花子さんは、父が自分の所有する土地を担保に融資を受け、その資金で公園や運動場を作る仕事を見て育ち、父を尊敬していました。将来、弟幸雄に家業を継いでもらいたいと花子さんは願っていました。
花子さんは、「婚姻中、元妻(高城千代さん)に、底をつくまで預金を浪費され、離婚調停の結果、光の親権を元妻に渡さざるを得なかった」という弟幸雄と2人兄弟です。
花子さんは、千代さんを「お金のためなら何でもする人」と感じています。
ある日、花子さんは、父、太郎さんを交通事故で突然亡くしました。
花子さんは父の家業と運転資金の生命線でもある福山家代々の土地をどう守っていくか頭を抱え、相続手続支援センターへ向かいました。土地の相続の仕方を誤ると、幸雄の元妻、千代さんに土地を売却されてしまう可能性に花子さんは気づいていたのです。
花子さんは、病気がちの幸雄を見て、「弟の若すぎる死」を常に覚悟していました。今回、幸雄に土地を相続させると、万一、光(現在11歳)の成人前に幸雄の死を迎えれば、この光に土地を渡すことになります。となれば、「光の親権者である千代さんの意のままに、土地を処分されてしまうだろう。」花子さんは、こう思わずにいられませんでした。
「この危険に備えるためには、どう相続したらいいのか?」
花子さんは、次の3つの選択肢を検討しました。
1 花子さんが単独で相続
◆メリット
土地を千代さんから守れる。
◆デメリット
幸雄の感情を損ねる。
2 花子さんと幸雄が、1/2ずつ共有で相続
◆メリット
①千代さんの意思のみによる土地の売却を阻止できる。花子さんが権利証と印鑑証明書を出さない限り土地を売却できないため。
②土地の管理方法について、千代さんの自由にさせないことができる。
◆デメリット
土地を2つに分筆され、それぞれを花子さんと千代さんの単独所有にされうる。
3 花子さんがわずかの持ち分(1/100程度)を持ち、幸雄と共有で相続
◆メリット
千代さんの意思のみによる土地の売却を、阻止できる。
◆デメリット
①土地の管理行為を千代さんの意思でされる。
②土地を1:99の比率で2つに分筆され、1の方を花子さん、99の方を千代さんの単独所有にされうる。
花子さんは、熟慮の末、幸雄と1/2ずつ共有で土地を相続しました。
その後、花子さんは、幸雄に、5年間遺産の分割を禁止する旨の遺言を残すようアドバイスしました。「遺産分割禁止の間に光の成人を迎えられれば、法定代理人でなくなる千代さんに、土地を売却されることはない。光も福山家の血を引く者、成人後、家業を無下にするようなことをしないだろう。」と考えたのです。
花子さんは、これら手続きを終えたのち、幸雄の健康と幸せを願いつつ、夫と家業を少しずつ成長させています。
参照条文
民法
5条 (未成年者の法律行為)
251条 (共有物の変更)
252条 (共有物の管理)
256条 (共有物の分割請求)
258条 (裁判による共有物の分割)
908条 (遺産の分割の方法の指定及び遺産分割の禁止)