60歳を過ぎてから結婚をしたHさん。ご夫婦の間には子供がいませんでした。
姉さん女房が病気で亡くなり、相続手続きをしようと銀行に行ったのですが、奥様、奥様の両親、兄弟の戸籍が複数いることを知り、相続手続支援センターで手続をすすめていました。
Hさん夫婦は晩年になってからの結婚で婚姻期間が短いため、奥様の兄弟や甥姪は、Hさんのことを財産目的で結婚したのではないかなどと勘繰り、なかなか遺産の分け方が決まりません。
相続でこんな思いをすると思っていなかったHさんは、相談員に『妻の相続が終わったら私は遺言書を作ろうと思います』と話していました。
そんな話をしていた矢先、急にHさんが自宅で倒れ、末期がんであることがわかりました。Hさんからの伝言ということで、甥から『主治医から余命2週間と言われた。身体がつらくてたまらない。一度病院に来てくれないか』と相談員が電話で呼び出されました。
Hさんは相談員に前から書きたいと思っていた遺言を書きたいと伝えました。
ただ、病状が悪く、公証役場と打ち合わせをして公正証書遺言を 書いている時間はない状況でした。
相談員は、主治医、弁護士、行政書士と相談をし、『危急時遺言』を作成していただこうと考えました。
※危急時遺言については民法により「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いを以って、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。」と規定しています。
一般的な遺言ではないため、遺言書を書くことのできる精神状態なのかをしっかりと主治医に確認をし、危急時遺言の要件などを弁護士、行政書士と確認をして、Hさんに伝えました。
Hさんは、これで何とか遺言を残すことができるとうれしそうでした。
翌日、弁護士、行政書士、相談員の立合いのもとHさんは遺言書を残すことができました。
そしてその4日後に亡くなりました。
その後遺言の検認を経て、無事に遺産をHさんの思いどおりに分けることができました。
Hさんの遺言は一番お世話になった甥に相続財産を渡すとともに、先に亡くなった奥様の供養をお願いするものでした。
Hさんの思いを受け、甥が一生懸命に供養をしてくれる姿を見て、私たちも安心しました。
よく、こんな状況では遺言なんて書けなかったでしょう?と亡くなった方の家族から聞かれます。最期の意思がはっきりしていれば遺言を残すことができることを相談員もHさんから教えていただきました。