『死亡届を出したら、役所から銀行に一斉に連絡が行き、通帳が凍結される』まことしやかに流れる相続に関する都市伝説。
冷静に考えたら役所が個人情報漏えいをしていることになるので、そんなことはないのですが、多くのご相談者と同じように相談者A(男性)さんも信じてしまったのです。
Aさんは介護のために仕事を辞めて、高齢で認知症のお母様と2人暮らし。
8年の介護の末、お母様が亡くなりました。
Aさんは介護をしていた8年の間に、自分自身の貯金は随分昔に底をついていました。
お母様が亡くなったとき、葬儀費用、喪服代、当座のご自身の生活費が心配になってしまいました。
お姉様に相談するよりも何よりも先にお金をおろすこと、それしか頭になかったのです。
Aさんは決してたった一人のお姉様に内緒でお母様のお金を独り占めしようとしたわけではなく、不安で仕方がなかったのです。
そこで、Aさんは葬儀社さんに死亡届を役所に提出するのを夕方まで待ってもらいました。
そして銀行で、亡くなったお母様の健康保険証、通帳、銀行印、Aさんの身分証明書(健康保険証)を持参して、銀行の窓口で葬儀をはじめとする当座の資金として600万円を引き出しました。
当然亡くなったお母様からの委任状などはありませんでしたが、その銀行は委任状での代理を認めず、同居の親族であることを身分証明書で確認(苗字と住所が同じことがしめせればよい)をし、本人しか持っていないはずの通帳と銀行印を持参することで正当な代理人として手続きをすることをルールとしていました。
Aさんは今までの8年間、幾度となく繰り返してきたこの窓口でのやり取りを経て、無事当座の資金を調達することができました。Aさんはほっとしました。
葬儀が終り、一息ついたところで、姉から今後のご供養と遺産について話をしようと言われ、Aさんは600万円を下したことは説明せず、今残っている財産を相続人2人で2分の1ずつにしようとお姉さんに言いました。
お姉さんも同意し、銀行で通帳を解約。その解約金を2分の1にしようとお姉様が解約済の通帳を見た時、少し顔色が変わったように感じたと後にAさんからお聞きしました。
銀行ではそのままお金を半分ずつにしたそうです。
しかし、2週間ほどしたある日、弁護士からの内容証明郵便が届きました。
そこにはお姉様から依頼を受けたこと、お母様の死亡後に引き出した600万円のうち半分の300万円を返してくださいという内容。いわゆる不当利得返還請求を受けたのです。
びっくりして私のもとにご相談にお越しいただいたのですが、今起こっていることのご説明をさせていただきました。
最終的にはお姉様の依頼した弁護士と面会し、300万円を支払うことになりました。
亡くなった方の財産は、亡くなった瞬間に相続人全員の共有財産になるということをお忘れなく。都市伝説を信じたがために、争う相続になりませんようご注意ください。