大門さん(仮名)は、夫を早くに亡くした叔母の世話をしていました。
叔母は大門さんの母の姉にあたる方で、長年学校の先生を務めており、夫の遺族年金や退職金などで多額の資産を保有していました。
少しずつ認知症の症状が出始めたころ、「有料老人ホームに入るので身元引受人になってほしい」と頼まれ、入所が決まると自筆の遺言書を預かりました。
「これからお世話になるから、私の財産はすべてあなたに相続してもらいますね。」との言葉を添えて。
その後10年ほどが経過し、叔母が亡くなり相続手続きのためセンターに来られました。
自筆遺言のため検認手続きを行いましたが、開封した遺言をみてびっくり。
文言が、『私の所有に係わる全ての受益権を大門さんに遺贈する』となっているのです。
受益権とは、資産の所有者から信託された資産より発生する利益を受け取る権利です。
叔母さんの遺産は、自宅マンション1室と、5つ銀行にある普通預金・定期預金で、資産をどこにも信託していませんでしたので、受益権なるものはありません。
生前、叔母さんは、「すべての財産を相続してもらいますね」と言っていたのですが、ふたを開けてみると、遺言書の文面は「すべての受益権を」になっていたのです。
このため、この遺言書の法律上の効力、この遺言をもとにした手続きの可否が問題となりました。
まず、家庭裁判所で遺言執行者として弁護士さんを選任してもらい、金融機関の解約を試みました。一部見解の確認のため時間のかかった銀行がありましたが、無事解約手続きを取ることができました。
マンションの登記についても司法書士さんの法務局への交渉により、通常の登記手続きにいくつかの書類を追加することで名義変更することができるようになりました。
何とか、遺言者である叔母の意向に沿った形で手続きを済ませることが出来ました。
叔母は学校の先生らしく、生前色々と勉強をして遺言書を完成させたようです。
何かのセミナーを聞いた際に「受益権」という言葉が印象に残ったようで、このような自筆遺言を残したようです。
遺言を書かれる際には、公正証書で作成することをお勧めします。
もし自筆遺言を作成した後でも公証役場に持っていって公正証書遺言に書き換えてもらい、公証人の法的なチェックを受けておかれると解釈に問題の無い遺言書を作成することができると思います。
大門さんは、叔母の気持ち通り遺言の執行ができたので、やっと落ち着いてご供養することができますと言っておられました。