谷本さん(仮名)は、女手ひとつで小学5年生の一人娘を大事に育てていました。
ところが、ある年末のニュースを見て驚きました。日本海沖でのカニ漁船の転覆事故です。行方不明の乗組員の中に離婚した元主人の名前があったのです。様々なテレビニュースやワイドショーで取り上げられ、翌日帰らぬ人となった報道を目にしました。
元主人の実家から連絡が入り、葬儀に娘と一緒に出席。そこで、大事な一人娘が唯一の相続人であること知ったのです。元主人の実家には通帳も印鑑も携帯電話も手掛かりになるようなものはありません。おそらく全てが海の中と思われます。ただひとつ分かったのは、何年か前に、消費者金融からの督促状が来ていたということだけでした。
谷本さんがセンターに相談に来たのは、相続放棄の期限まであと2週間という時期でした。相続人は未成年の娘のみ。母親である谷本さんが親権者として全ての手続きをしないといけません。さらに、手掛かりになるものは全くない状況です。そのため、急いで家庭裁判所に相続放棄伸長の申述手続をしました。
その漁船は労災保険に加入しており、3,000万円ほど保険金がでるとのことでした。谷本さんはその全額を受け取れると考えていました。
労災保険の取り扱いについて弁護士に尋ねたところ、労災保険と言っても取り扱いは様々で、葬儀費用に該当するものは葬儀費用を負担した方が、生活保障に該当するものは同一世帯で生計を一にしていた方が、退職金に該当するものは相続人がそれぞれ受け取る、といった具合です。
谷本さんの場合は、退職金相当額の200万円でした。
さらに、個人信用情報センターで情報開示を行ったところ、案の定、消費者金融に借金がある事が分かりました。同時に元主人の実家近隣の金融機関・漁協などを廻って財産を調べましたが、借金の方が多い結果です。さらに、住民税等の税金の滞納もあり債務は増える一方でした。
谷本さんは相続放棄することを決断されました。
というのも、元主人の実家が労災保険金で債務整理をすると言ってくれたからです。もし、相続放棄の期限を過ぎてしまうと大事な小学生の娘さんは借金を背負うことになっていました。
いつ何が起こるかわかりません。残された方の迷惑にならないよう心掛けたいものです。当事者の間違った知識の思い込みもあるので、まずは専門家に相談されることをお勧めします。