原田さん(仮名)は高齢でしたが、足腰がしっかりとしていて、頭もはっきりしている方でした。そんな原田さんが公正証書遺言を作成したいと、当センターを訪ねて来られました。お話を聞いてみると、既に亡くなられた奥様との間には子供がなく、自分に万が一の事があった時に備えて遺言書を作りたいということでした。
センターで相続関係図を作成したところ、相続人は原田さんのご兄弟と、既に亡くなられたご兄弟の子供(おい・めい)であることが分かりました。その数は10名にもなり、相続時には遺産分割が困難になることが予想されました。原田さんもその事実を認識していたようで、日ごろから身の回りの世話をしていた薄木さん(仮名)(相続人の一人)に遺産を残したいというお考えでした。
薄木さんも原田さんの希望は聞かれていたようで、公正証書遺言作成の手続きはスムーズに進みました。作成当日は担当の私も証人として同行し、無事に公正証書遺言を作成でき、お二人とも安心した様子でお帰りになられました。
突然の連絡があったのは翌日でした。連絡は薄木さんからで「今日の朝方、原田さんが亡くなりました。」というものでした。初め、私はあまりに突然で、その言葉の意味を理解できませんでした。昨日まで元気だったのになぜ…?
その後に聞いた薄木さんのお話では、原田さんは常に自分が亡くなった後のことを考えていて、不安やストレスを感じていたけれど、ようやく遺言書を作成してホッとされたのではないかということでした。
確かに思い返せば、昨日の帰り道の原田さんの表情は、いつもと比べて柔らかかったように思えました。
原田さんが亡くなられたことは残念でしたが、原田さんの遺志に基づき薄木さんへの財産の名義変更手続きをお手伝いさせて頂きました。
この案件を通じて、自分の死後について悩んでいる方は多いものだと感じると同時に、私たちにできることはたくさんあるのだと感じました。