中野さんには、ご主人と3人の子供がいました。子供達は皆、実家を離れ各々の家庭を築き暮らしていました。そんな中、中野さんのご主人は、末期癌に侵され余命6ヶ月と病院の医師から告げられました。
1か月後、中野さんから「主人の願いで公正証書遺言の作成をお願いしたい」との相談を受け、お手伝いすることになりました。
中野さんのご主人が遺言書を遺すことを決意した背景には、実家に何年間も帰って来ない子供達の姿がありました。中野さんは、せめてご主人が元気なうちに、子供達が実家に帰って来て欲しいとの思いから、ご主人の病気を伝えることにしました。残念ながら「仕事で忙しいから」「子供のことで時間がない」との理由で子供達は実家に帰って来ることはありませんでした。
ご主人の「妻に全ての財産を相続させたい」「子供達には財産を相続させたくない」「手続きがスムーズにいくように」の想いを受け素案を仕上げましたが、予定されていた本作成日の3日前に、中野さんから「主人が亡くなった、間に合いませんでした」との知らせを受けました。
ご主人の葬儀で久しぶりに会った子供達は、中野さんに「お母さんは家を継いで、私達は家はいらないのでお金だけちょうだい」と相続の話を持ちかけました。中野さんは驚きで返す言葉もなく、愕然としました。中野さんの想いは、実現しなかった公正証書遺言のご主人の遺志を願っていました。
中野さんは、公正証書遺言が作成出来なかった今となっては、もはや何の効力もない素案でご主人の遺志を実現することが困難であることを十分理解していました。しかし、中野さんは諦めませんでした。四十九日の法事で帰省する予定の子供達に対し、ご主人の遺志が綴られた素案を読み聞かせ、子供達に対する「ご自身の想い」「ご主人の想い」を本音でぶつけることに決めました。
四十九日の法事後に「全てうまくいきました。素案の通り相続手続を進めてください、お願いします」と中野さんから電話がありました。その後は、子供達の協力を得てスムーズに手続きを無事に終えることが出来ました。
法事の後、中野さんの話に、子供達が涙を流しながらじっと聞いていたそうで、中野さん夫婦の想いがようやく子供達に通じたのかと思うと、安堵の気持ちでいっぱいになりました。