お父様の相続手続きの相談で、長男のAさんがお越しになられました。
Aさん夫婦は、長年に渡り、既に他界しているお母様とお父様と同居し、身の回りの世話をしてきました。同居宅は、土地がお父様名義で建物はAさん名義だったので、ご自身の亡き後にきちんと土地がAさん名義になるように生前に公正証書遺言を作り、Aさんに託していました。
そこで、「公正証書遺言に基づき手続きをお願いしたい」というAさんの依頼を受け、お手伝いをすることになりました。
相続人はAさんの他に3人のお姉様がおり、Aさんとは長年疎遠状態でした。Aさんは、お父様の死去及び葬儀の日時をお手紙にて伝えましたが、お姉様は結局ご葬儀にも参列しなかったそうです。
Aさんによると、お姉様は公正証書遺言の存在を一切承知していないとのことだったので、まずはAさんからお姉様に対し、公正証書遺言の存在と内容の確認、他の遺言書の存在や土地以外の財産を承知している場合はすみやかに知らせて欲しい旨、もし何も無ければ、公正証書遺言に基づき手続きを進めていく旨をお手紙にてお伝えしました。
約1ヶ月経っても何の連絡も無かったため、公正証書遺言に基づき土地をAさん名義に変更する手続きを行いました。手続き後、あらためてAさんよりお姉様に対し、手続き完了の報告のお手紙をお送りしました。それから約2週間後、一人のお姉様よりAさんに対し、遺産分割の話し合いをしたいとの連絡があり、不思議に思いながらもAさんは3人のお姉様と会うことにしました。
いきなりお姉様は、お父様の自筆の遺言書をAさんの目の前に差し出しました。その遺言書の作成日は、公正証書遺言を作った約2年後で、内容は以前作った公正証書遺言を「撤回」するというものでした。
そこではじめてAさんはお姉様の言っていた「遺産分割の話し合いをしたい」の意味を知りました。Aさんとしては、山ほど言い分がありましたが、残念ながら現実を受け入れざるを得ませんでした。
その後、幾度のお姉様との話し合いの結果、Aさんは土地を相続する代わりにお姉様に対して代償金を支払うことで決着しました。
「父の供養は、私が今後責任持って行っていく」と目に涙を浮かべ力強くおっしゃっていたAさんに対し、私は「頑張りましょう」と声を掛けるのが精一杯でした。