お父様の相続のことで長男Aさんが相談に見えました。お父様は生前に公正証書遺言を作っており、Aさんの自宅の土地(建物はAさん名義)をAさんに相続させる内容でした。
お母様が亡くなられた後、お父様はAさんの家族と同居し面倒をみてもらい生活を送っていたこともあり、ご自身の土地をAさんに相続してもらいたいというお気持ちがあったのでしょう。
相続人はAさん以外に3人のお姉様の合計4人でしたが、Aさんとは全くの疎遠状態で、生前に同居していたお父様に会いに来ることはなく、お父様の葬儀にも出席されていなかったそうです。そこで、まず相続の手続きを進める前に3人のお姉様宛にAさんから手紙を送っていただきました。
内容は、公正証書遺言の存在とそれに基づいて土地の名義変更の手続きを行うこと、土地以外に他の財産の存在を知っているのであれば今後皆で話し合いをしたいというものでした。
それから数日後、Aさんのもとにお姉様から「早く遺産分割協議を行いたい」との連絡がありました。Aさんはお姉様の言っている意味がよく分からなかったそうですが、とにかく一度会って聞いてみようと考え、後日会うことにしました。そこで、ようやくお姉様の言っている意味が分かったのです。
何とお父様は、Aさんに土地を相続させる内容の公正証書遺言を作った約3ヶ月後に、その公正証書遺言を「撤回」する公正証書遺言を作っており、それをお姉様がずっと保管していたそうです。
複数の遺言書が出てきた場合には、基本的に日付の新しいものが優先されるため、お姉様が保管していたお父様の遺言書の方に効力があり、Aさんの保管していた遺言書は効力がないものだったのです。
その後、幾度となく話し合いを重ねた結果、Aさんが自宅の土地を相続する代償としてお姉様3人に対し代償金を支払うことで協議がまとまり手続きを行いましたが、最後の納品時には、悔しさで涙が溢れていたAさんに対し、「もう忘れましょう」と声を掛けるのが精一杯だったことを今でも覚えております。