ある日のこと、尼崎市にお住まいの大山明子さん(仮名)から、「相続の手続は終わっているのですが、金銭的な部分で相談がありまして」と沈んだ声で電話がありました。
明子さんのご主人が亡くなられたのは、12年前。ご主人には他に兄妹がおられましたが、長男の嫁ということで、ご主人が亡くなられた後も、明子さんは、月に2、3度、遠方に住んでいるご主人のご両親のお世話をしに通っておられました。
義理のお姉様に久しぶりに会ったときに、「そんなに無理しなくていいよ」と声をかけていただいたそうですが、義理固い明子さんは、その後も、高齢のご両親への訪問を続けておりました。
もうすぐ十三回忌という節目を迎えるにあたって、また、高齢のご両親の面倒をみながら、自分自身もどんどん歳をとっていく現実に直面して、明子さんは、「これからの人生、自分に悔いのないように生きていきたい」「何よりも自立したい」と強く思うようになりました。
そういうふうに思うことが、いいことなのか、悪いことなのか?そのために何か金銭的なものを用意しなければならないのか?何よりも、亡くなった主人はどう思うか?など、誰にも相談できずに、深い悩みの中におられ、相談に来られたのでした。
まず、亡くなったご主人の親族との関係を終了させる手続としては、役所への「姻族関係終了届」というものがあり、同時に、旧姓に戻るための「復氏届」を提出し、新しい戸籍を作成すれば、亡き夫の親族とは縁がなくなり、自立することになります、と説明しました。
明子さんが一番気がかりだったのは、苗字が旧姓に戻って、果たして遺族年金は支給され続けるのか?ということでした。早速、センターの社労士に聞いてみると、「再婚をしない限り、遺族年金は、正当な権利ですので、全く問題ないです。堂々と受け取ってください」とのこと。遺族年金が、そのまま受け取ることができるとわかり、明子さんは心からホッとした様子でした。
ちなみに、法的に何か「手切れ金」のようなものを渡さなければならないのか?というご質問には、「法的に義務などはありません。あくまでも、気持ちの問題ですので、そこは、お一人で抱え込まずに、義理のお姉様にでも相談してみてください」と申し上げました。 (お一人で抱え込まずに……)
明子さんのこういった金銭的な悩みは、実は、誰にでも起こりうることです。誰にでも起こりうることですが、なかなか相談しにくいことであり、公的な場所として、どこに相談したらいいのかが、わかりにくいところです。
明子さんもその一人でした。たまたま、センターのことを知人から聞いて、相談に来られ、遺族年金のことだけでなく、これまで悩んでいた気持ちの部分までお話されたことで、相談終了時に、「ありがとうございました。話を聞いていただいたおかげで、心がすっきり軽くなりました。明日からは、進むべき方向に向かっていきます。」と、おっしゃっていただきました。どうやら、明子さんの自立への一歩をセンターが後押ししたようです。
年齢的にも近い明子さんが、晴れやかな表情で、歩いていく後ろ姿に「頑張ってください」と心の中でエールを送りました。